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昔話

 ザルセルシア地方フランルージュ国、首都・エンブレスから陸路で五日ほど。
 ひょっとしたら属領・ノルゴワールのほうが近いかもしれない。
 ……俺の故郷であるユルディニアはそんな偏狭な場所にあった。
 守りの結界が届かないそこには、500人ほどの人々が生活している。ジークフリート家は、代々このユルディニアの民を護るために配置された名家である。
 当主である母は“穢れ除けの風雷”という二つ名をもつ神官戦士だった。
 ヴァルキリーという神に祝福された存在として彼女は民の士気を上げていたという。――だが、その士気はやがて崩壊する。

 20年前、ノスフェラトゥを筆頭とした蛮族がユルディニアを襲ったのだ。

 民の八割は死傷、最後まで彼女は戦い抗うも 敗北する。
 母の心身には屈辱が刻まれた。当時二十歳だった彼女は道楽で処女を奪われ、民が供物にされていく様を指くわえて眺めることしかできなかった。
 月日にして三ヶ月、蛮族の支配は筆頭の吸血鬼が飽きるまで続いたという。

 母は言う、「私はお前を愛していない」と。
 母は語る、「だがお前のその血は穢れを排するには都合がいい」と。
 母は謳う、「この世の全ての穢れをその手で滅ぼせ」と。

 かつて神に祝福された戦乙女は吸血鬼による屈辱を受けた。
 そして穢れに復讐するための命をその身に宿す。
 全ての穢れを屠るための“道具”。

 ――“神からの慈悲深い贈り物(ジャンカルロ)”、それが俺に与えられた名前だった。

道具としての人生

 俺の人生は“穢れを屠るための道具”でしかなかった。
 「お前のその血は穢れを滅するためにある」半ば呪詛のようにそう幼い俺に言って聞かせては日の出から日の入りまで延々と苛烈極める訓練を母は課す。それ以外も蛮族に蹂躙された歴史を、事実を。ある日は食卓で、ある日は寝入る前に。穢れへの憎悪を母は語り続ける。
 ユルディニアには学び舎が存在するものの。成人するまで屋敷から出ることは禁じられ、教育は全て母が執り行った。同世代の友人もいなければ、話し相手になる存在もおらず。交友はことごとく禁じられた。
 それもそうだ、穢れを孕む俺は憎まれるべき存在であって愛される権利は持ち合わせていない。
 許されないことなのだ。

 周りはこの環境を“異常”と捉えるかもしれない。
 だが俺はその“異常”を受け入れた。

 ――それしか俺の存在証明は なかった。

共生する国

 15の成人を迎えるのを境に、俺は旅に出た。
 穢れを狩るための旅を、穢れを屠るための旅を。
 初めて殺したのはコボルドだった、メイスで相手を殴りつけた感触は今も手に残っている。
 意気揚々と死体を旅先で自慢する。
 だが民衆は予想とは違う反応を示した。

 ――「人殺し」

 周りは殺されたコボルドを悼み、殺した俺を罵倒する。
 突き放す。
 石を投げる。
 俺は俺の正義を実行しただけなのに。

 何故だ

 何故

 何故

 何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故


 俺が訓練を受けている間にどうやら国は変わってしまったらしい。
 穢れをもつ者を受け入れる国に、だ。
 俺は否定した。
 俺は憎んだ。
 俺は嘆いた。
 俺は

 ひとしきり慟哭した後、足は動くことを再開する。
 俺の存在を証明するために、穢れを屠る旅を続けた。

最初で最後の

 故郷とはまた違う辺境で俺は身を休めていた。
 穢れを屠っては罵倒されを繰り返す日々。その日々を否定すべく穢れを狩る日々。
 愚かしくも悪循環を巡らせ、学習の「が」の字もないままに歴史を繰り返す俺に、一つの変異をもたらす女がいた。

 女は敬虔な神官だった。
 村の者に愛され、村の者を純粋に愛していた。俺とは真逆の存在。
 彼女が妖魔に襲われていたところを、俺がいつものように穢れを屠って。結果として助けたきっかけで知り合うこととなった。

 奇妙な女だった。
 母を蹂躙した吸血鬼の面影をもつこの顔を「綺麗」と言い。
 夜闇に光る紅の瞳を「ルビーのようだ」と喩え。
 俺の人生を憐れんだ。
 今振り返ればこれは初恋なのだろう、俺は女の奇妙を心地よく感じた。

 ――あの日が来るまでは。

 その辺境で蛮族の襲撃があったのだ。
 家は燃え、人々は死傷した。
 俺が生まれるきっかけとなった襲撃の惨状もこんな感じだったのだろうか。
 俺は戦った。血を流しながら両手で数え切れないほどの蛮族を殺し続けた。
 戦火に巻き込まれた女を捜しながら。

 女は重傷だった。

 俺には癒す力がない、それを知っていた彼女は一言だけ俺に告げる。


「   」


 初めて俺は血を吸った。
 果実のような甘美を覚えたと同時に、自分が厭しい蛮族であることを再認識させられた。

 もし国が穢れを受け入れる政策をしていなかったら、この村は救われたのだろうか?

宵闇の国へ

 この事件を境に自分の顔に一筋の消えぬ傷を刻んだ。
 母が憎んだ男の顔に、「いつか殺す」という決意の表しとして。

 改めて俺はこの世に蔓延る穢れを排斥することを誓った。
 その誓いの第一歩として、蛮族が支配するというアリアドネ国へ向かう船に乗り込む。

 この世全ての穢れを屠る。
 それが俺の存在証明だと、認識しながら。

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