編集日時:2018年08月05日(日) 14:08:12履歴
アラン・アルグレイフと呼ばれる、見た目は少年であるが、既に成人している彼が目を覚ましたのは、なにもない空間であった。
最初はわけも分からず、ただただ周りを見渡す。そして、あることに気づく。
誰かが自分を見ている。レプラカーンと呼ばれる自分よりも高い身長と、変哲もない姿。汚れや、ひげ、耳、鱗などの変化もない、普通の人間だ。
「起きたっすか?」
人間から声が聞こえる。
「ええ、只今起きました……ここは?」
「さぁっす。俺っちも今起きたとこっすから」
その言に偽りなく、座ったままあくびをする人間の身体を伸ばし、キョロキョロと周りを見渡していた。
「ここどこっすかねぇ。俺っちは部屋で寝てたはずなんすけど」
「分かりかねます。急に眠気が来たと思ったら、ここにいるのですから」
二人揃って立ち上がると、動き出していた。身体の調子と、今どの程度動けるのかを調べるためだ。
「そういえば、自己紹介がまだだっすね。俺っちはレイゔぇ!?」
「大丈夫ですか?」
「い、いはいっふ……」
彼は、舌を出しながら、答える。よく見ると、舌には同じような跡が残っている。そうとうな噛み癖があるのか、同じところで噛まれててくっきりとしていた。
「れ、レブでいいっす。君はなんていうんすか?」
「アラン・アルグレイフと申します。レブ殿」
「アランっすね。よろしくっす!」
人間―――レブはそう、警戒もない笑顔で手を差し出す。その様子を見たアランは、訝しげにレブを見た。
「あれ? こうゆうのダメっすか?」
「まだ貴方が原因ではない、と決まったわけではありませんから」
「えぇ、俺も巻き込まれっすけど、こうゆうときはお互い協力していった方がいいんじゃないっすか?」
「何故会ったばっかり他人を信じられますか」
アランの言葉に、レブは伸ばした手を顎に当て、ほむ、と漏らした。
「なぁるほど、まぁその辺はおいおい……っと、あれ?」
アランはレブが見た先を見る。そこには、二振りの剣が付き立ち、その間に豪華な宝石に彩られた装飾があった。
「お、俺の武器じゃないっすか? なんで……」
「迂闊に近づいては……」
レブは「大丈夫っす〜」と近づき、剣を納め装飾を太ももにはめる。数度調子を確かめると、こちらに向き直った。
「うん、俺っちの武器っす。具合もばっちしっす」
「……はぁ、そうですか」
数度の探索にかかわらず、成果は一向に挙げられずその場に座り込んでいた。
「この仏頂面も慣れてきたっすね」
「呑気なものですね……いつ帰れるとも分からないものを」
「そりゃ早く帰りたいっす。イーさんに会いたいっす」
「……会いたい人……」
アランは少し遠い顔をした後、顔を振る。
「お? 誰か気になるんすか?」
「れ、レブ殿には関係ないでしょう?」
「いやぁ、だっていつも俺っちが質問される側っすから、他の方のもんにもつっこみたいっすよ」
「いつも……って、別に私は彼女とは別に……」
「じれったいっすねぇ。まぁ、俺っちもそうなりたいっていう理想っすけど」
「っ……なんで」
レブは首をかしげ、アランを見る。
「なんで、口にできるのです。言葉にできるんですか……」
「だって、そうしないと伝わらないっすよ?」
アランは口を閉じてレブを見る。
「伝わらないんすよ。目を見ても、行動しても、それを伝えきるのは無理なんですよ?」
「では、どうすれば……」
「だから、言葉にするんす。それが、間違っても、バカでも、相手が嫌だといっても」
「なんで、そんなことを……」
「だって、伝えたいと思うのは自分じゃないっすか」
「っ……」
「恥ずかしくても、後悔するよりは全然いいっす。間違っても、否定されても、俺はそうだって伝えるっす」
「……それでも、否定されたら……」
「悩む暇があるなら行動するっす」
「……拒絶されたら、答えが間違っていたなら」
「なら、伝え方が悪かったって謝るっす」
「…………しか、し」
「あーじれったいヘタレっすね」
「……な、に?」
一瞬、アランは何を言われたのか、わからなかった。
「だって、いつまでもグジグジして、言いたいことも言わないで、ただただ流されて答えを聞くだけ。これをヘタレと言わずしてなんていうんすか?」 (ゴフゥ
「っ……」
アランの拳が、強く握られる。
両者が動いたのは、一瞬だった。
拳と剣がぶつかる。
「ま、武器が置いてあることから、想像してたっすけど」
「黙れ、黙れ、黙れ!!」
防護された腕の力を抜き、身体を倒しながらアランはレブの顔めがけ必殺の蹴りを放つ。
背中を倒すように、寸でで躱したレブは、身体を回し裏拳の要領で斬りかかる。
アランは剣を見ることもなく避け、身体を翻し距離を取る。
お互い、交戦距離を保ったまま、にらみ合う。
「ま、こうなったら戦りましょうか。とことん付き合いますっす」
「その目で、俺を見るなぁ!!」
アランは前傾姿勢で突撃するが、既にレブは動いていた。
「よそ見厳禁っすよ、《ファイアアロー》!」
「っ!?」
炎の矢が打ち出される……その熱を身に受けながら、尚も前進を続けるアラン。
「また魔法……っ! こぉの!!」
肉薄し、跳躍で勢いをつける。しかし、レブも既に剣を振りかぶり、近接へと移行していた。
しかし、アランはその剣を握る手を掴む。
「……そっち!?」
手を捻る。それだけで、レブの身体は一回転し、地面に叩きつけられる。
そして、無防備にさらされた顔へ目掛け、その踵を下ろす。
「遅い!!」
踵が叩き付けられ、その小柄な身体から考えられないほどの衝撃が地面へと伝わる。
「あっぐ……」
「終わりです」
「ま、まだっす! 《サモン:ノーム》!!」
「な……!?」
魔晶石が割れ、魔力の塊が形作り、ノームが現れる。
ノームは、地面を隆起させ、アランへと迫る。
しかし、隆起した地面は、アランを捉えることはなかった。
「キュルルルルル!」
一体のヒポグリフが、アランを咥え助けたのだ。
「クルル!?」
「キュルルルルラァァー!」
その背にアランを投げる。アランはヒポグリフ―――クルルの背中に立つ。
「……ハハ」
「何がおかしいのです?」
「いやぁ、仲間いるじゃないっすか」
アランは、何を言われたのかわからなかった。
レブは、近くに来たノームと手を合わせながら、アランを見た。
「俺は馬鹿っす。正しいことなんてなんなのか解らないっす。けど、それが間違っても止めてくれる人がいるっす。言ってくれる人がいるっす」
「……そんなの、私には」
「だから、俺は言うっす。アラン、あんたが恐れてるのは、その人に嫌われること、それ以上に、自分自身のことっす!!」
「っ……!!」
「自分なんかいなくていい、そう思えるから捨て鉢できるんす。自分が間違ってる、だから心を言い出せないっす! 自分が嫌いだから、誰も好きになってくれない。そう思えるからなにも出来ないんす!!!」
「……っ……!!」
ノームは、アランの地面を押し上げる。その勢いのまま、剣を収め、拳を握りアランへと突っ込む。
「自分を好きになるっす、気持ちの素直になるっす! アランは、もうそれができる仲間がいるんすから!!」
無防備なアランの顔に、レブの拳が突き刺さる。そのまま二人は空中へと飛び出る。
「(……ああ、貴方は……ほんとに……本当にそう思ってくれてるんですね……)」
「あ、やっべ……!」
飛び出したまま、地面へと真っ逆さまに落ちていく二人を、クルルが助ける。
「お、おう……危なかった、助かったぁ」
「全く、レブ殿は無茶なのですね」
「無理だったらしてないっす……まぁ、説得力ないっすけど。ありがとうっす!」
「……私も、貴方みたいになれますかね?」
「俺っちみたいに?」
「ええ……言葉をまっすぐ、ぶつけられますか?」
その言葉に、レブは思いっきり笑顔をみせ
「やればいいんす。まっすぐ、ぶつかって……ぶつかっていくっす!」
「借りはいずれ返します」
「期待しないで待っとくっす。ヘタレアラン」
「あ、この……」
戦闘が終わった。その瞬間、周りの風景がだんだんとぼんやりしてきた。
「……終わりっすね」
「はい……終わりです」
今ならわかると、アランは思った。
まだ、自分でもできることがある。
「……レブ」
「なんすか」
アランは呼吸を整えた
「ありがとう、やれるだけやってみます。そして、必ず貴方に借りを返します」
「……吉報を待ってるっす。それじゃ」
「ええ、では」
「「また会う日まで」」
空間が白く染まり、二人は意識を失う。
そして、人知れず邂逅は終わった。
この二人は、どこかで会うのかもしれない。いや、もしかたら出会わないかもしれない。
だが、ここであったことは、必ず二人に残ったものとなる。
さぁ、君たちの冒険を始めよう。
最初はわけも分からず、ただただ周りを見渡す。そして、あることに気づく。
誰かが自分を見ている。レプラカーンと呼ばれる自分よりも高い身長と、変哲もない姿。汚れや、ひげ、耳、鱗などの変化もない、普通の人間だ。
「起きたっすか?」
人間から声が聞こえる。
「ええ、只今起きました……ここは?」
「さぁっす。俺っちも今起きたとこっすから」
その言に偽りなく、座ったままあくびをする人間の身体を伸ばし、キョロキョロと周りを見渡していた。
「ここどこっすかねぇ。俺っちは部屋で寝てたはずなんすけど」
「分かりかねます。急に眠気が来たと思ったら、ここにいるのですから」
二人揃って立ち上がると、動き出していた。身体の調子と、今どの程度動けるのかを調べるためだ。
「そういえば、自己紹介がまだだっすね。俺っちはレイゔぇ!?」
「大丈夫ですか?」
「い、いはいっふ……」
彼は、舌を出しながら、答える。よく見ると、舌には同じような跡が残っている。そうとうな噛み癖があるのか、同じところで噛まれててくっきりとしていた。
「れ、レブでいいっす。君はなんていうんすか?」
「アラン・アルグレイフと申します。レブ殿」
「アランっすね。よろしくっす!」
人間―――レブはそう、警戒もない笑顔で手を差し出す。その様子を見たアランは、訝しげにレブを見た。
「あれ? こうゆうのダメっすか?」
「まだ貴方が原因ではない、と決まったわけではありませんから」
「えぇ、俺も巻き込まれっすけど、こうゆうときはお互い協力していった方がいいんじゃないっすか?」
「何故会ったばっかり他人を信じられますか」
アランの言葉に、レブは伸ばした手を顎に当て、ほむ、と漏らした。
「なぁるほど、まぁその辺はおいおい……っと、あれ?」
アランはレブが見た先を見る。そこには、二振りの剣が付き立ち、その間に豪華な宝石に彩られた装飾があった。
「お、俺の武器じゃないっすか? なんで……」
「迂闊に近づいては……」
レブは「大丈夫っす〜」と近づき、剣を納め装飾を太ももにはめる。数度調子を確かめると、こちらに向き直った。
「うん、俺っちの武器っす。具合もばっちしっす」
「……はぁ、そうですか」
数度の探索にかかわらず、成果は一向に挙げられずその場に座り込んでいた。
「この仏頂面も慣れてきたっすね」
「呑気なものですね……いつ帰れるとも分からないものを」
「そりゃ早く帰りたいっす。イーさんに会いたいっす」
「……会いたい人……」
アランは少し遠い顔をした後、顔を振る。
「お? 誰か気になるんすか?」
「れ、レブ殿には関係ないでしょう?」
「いやぁ、だっていつも俺っちが質問される側っすから、他の方のもんにもつっこみたいっすよ」
「いつも……って、別に私は彼女とは別に……」
「じれったいっすねぇ。まぁ、俺っちもそうなりたいっていう理想っすけど」
「っ……なんで」
レブは首をかしげ、アランを見る。
「なんで、口にできるのです。言葉にできるんですか……」
「だって、そうしないと伝わらないっすよ?」
アランは口を閉じてレブを見る。
「伝わらないんすよ。目を見ても、行動しても、それを伝えきるのは無理なんですよ?」
「では、どうすれば……」
「だから、言葉にするんす。それが、間違っても、バカでも、相手が嫌だといっても」
「なんで、そんなことを……」
「だって、伝えたいと思うのは自分じゃないっすか」
「っ……」
「恥ずかしくても、後悔するよりは全然いいっす。間違っても、否定されても、俺はそうだって伝えるっす」
「……それでも、否定されたら……」
「悩む暇があるなら行動するっす」
「……拒絶されたら、答えが間違っていたなら」
「なら、伝え方が悪かったって謝るっす」
「…………しか、し」
「あーじれったいヘタレっすね」
「……な、に?」
一瞬、アランは何を言われたのか、わからなかった。
「だって、いつまでもグジグジして、言いたいことも言わないで、ただただ流されて答えを聞くだけ。これをヘタレと言わずしてなんていうんすか?」 (ゴフゥ
「っ……」
アランの拳が、強く握られる。
両者が動いたのは、一瞬だった。
拳と剣がぶつかる。
「ま、武器が置いてあることから、想像してたっすけど」
「黙れ、黙れ、黙れ!!」
防護された腕の力を抜き、身体を倒しながらアランはレブの顔めがけ必殺の蹴りを放つ。
背中を倒すように、寸でで躱したレブは、身体を回し裏拳の要領で斬りかかる。
アランは剣を見ることもなく避け、身体を翻し距離を取る。
お互い、交戦距離を保ったまま、にらみ合う。
「ま、こうなったら戦りましょうか。とことん付き合いますっす」
「その目で、俺を見るなぁ!!」
アランは前傾姿勢で突撃するが、既にレブは動いていた。
「よそ見厳禁っすよ、《ファイアアロー》!」
「っ!?」
炎の矢が打ち出される……その熱を身に受けながら、尚も前進を続けるアラン。
「また魔法……っ! こぉの!!」
肉薄し、跳躍で勢いをつける。しかし、レブも既に剣を振りかぶり、近接へと移行していた。
しかし、アランはその剣を握る手を掴む。
「……そっち!?」
手を捻る。それだけで、レブの身体は一回転し、地面に叩きつけられる。
そして、無防備にさらされた顔へ目掛け、その踵を下ろす。
「遅い!!」
踵が叩き付けられ、その小柄な身体から考えられないほどの衝撃が地面へと伝わる。
「あっぐ……」
「終わりです」
「ま、まだっす! 《サモン:ノーム》!!」
「な……!?」
魔晶石が割れ、魔力の塊が形作り、ノームが現れる。
ノームは、地面を隆起させ、アランへと迫る。
しかし、隆起した地面は、アランを捉えることはなかった。
「キュルルルルル!」
一体のヒポグリフが、アランを咥え助けたのだ。
「クルル!?」
「キュルルルルラァァー!」
その背にアランを投げる。アランはヒポグリフ―――クルルの背中に立つ。
「……ハハ」
「何がおかしいのです?」
「いやぁ、仲間いるじゃないっすか」
アランは、何を言われたのかわからなかった。
レブは、近くに来たノームと手を合わせながら、アランを見た。
「俺は馬鹿っす。正しいことなんてなんなのか解らないっす。けど、それが間違っても止めてくれる人がいるっす。言ってくれる人がいるっす」
「……そんなの、私には」
「だから、俺は言うっす。アラン、あんたが恐れてるのは、その人に嫌われること、それ以上に、自分自身のことっす!!」
「っ……!!」
「自分なんかいなくていい、そう思えるから捨て鉢できるんす。自分が間違ってる、だから心を言い出せないっす! 自分が嫌いだから、誰も好きになってくれない。そう思えるからなにも出来ないんす!!!」
「……っ……!!」
ノームは、アランの地面を押し上げる。その勢いのまま、剣を収め、拳を握りアランへと突っ込む。
「自分を好きになるっす、気持ちの素直になるっす! アランは、もうそれができる仲間がいるんすから!!」
無防備なアランの顔に、レブの拳が突き刺さる。そのまま二人は空中へと飛び出る。
「(……ああ、貴方は……ほんとに……本当にそう思ってくれてるんですね……)」
「あ、やっべ……!」
飛び出したまま、地面へと真っ逆さまに落ちていく二人を、クルルが助ける。
「お、おう……危なかった、助かったぁ」
「全く、レブ殿は無茶なのですね」
「無理だったらしてないっす……まぁ、説得力ないっすけど。ありがとうっす!」
「……私も、貴方みたいになれますかね?」
「俺っちみたいに?」
「ええ……言葉をまっすぐ、ぶつけられますか?」
その言葉に、レブは思いっきり笑顔をみせ
「やればいいんす。まっすぐ、ぶつかって……ぶつかっていくっす!」
「借りはいずれ返します」
「期待しないで待っとくっす。ヘタレアラン」
「あ、この……」
戦闘が終わった。その瞬間、周りの風景がだんだんとぼんやりしてきた。
「……終わりっすね」
「はい……終わりです」
今ならわかると、アランは思った。
まだ、自分でもできることがある。
「……レブ」
「なんすか」
アランは呼吸を整えた
「ありがとう、やれるだけやってみます。そして、必ず貴方に借りを返します」
「……吉報を待ってるっす。それじゃ」
「ええ、では」
「「また会う日まで」」
空間が白く染まり、二人は意識を失う。
そして、人知れず邂逅は終わった。
この二人は、どこかで会うのかもしれない。いや、もしかたら出会わないかもしれない。
だが、ここであったことは、必ず二人に残ったものとなる。
さぁ、君たちの冒険を始めよう。