sw2.5のコミュ将来亭wikiです。

*要注意:苦手な方はブラウザバックをお願いします。また、あまりに酷いとお話が挙がった場合は、より人目につかない自ページにURLのみ記載、内容を移動致します。
・陰鬱、過激な表現が多数含まれます。
・著しい世界観崩壊が見られます。
・シンカの独自解釈、個人的な主義主張が多数含まれます。
・このSSはシンカの所有PC、『ザラキール・D・レクイエスカス』『フォルティーネ・ラグルージュ』『ルシファーレ・ネメジスレイヴ』、以上3PCを深堀りするSSです。

以上確認の上、OKな方には是非、最後まで読んで頂けたらと思います。
よろしくお願いします!



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「―――うわぁ、すごい!!キレー・・・」

生まれて始めて、自分の魔法を褒めて貰えた。

「ギン色でキラキラしてて、ダイヤモンドみたいだよ!ザラキ!!」
「そ・・・そうかなぁ・・・」

口元が緩む。
薄暗い物置。
座っているだけで軋む床。
壁の隙間からは日の光が差して、折り目だらけの汚い魔導書を照らす。
埃を被った人形を挟んで、二人きり。

簡単な、強化の魔法だった。
無意識の霊を魔力に変えて、物に宿らせる。
特に動かし操るでもなく、ただ硬く、丈夫になるというだけの魔法。
それでも、その人形に灯った、それを唱えた自分に灯った、魔力の光を見た彼女は、目を輝かせて笑ってくれた。

父を手伝いたい。
行く先々で泣いている人々を前に、苦しみながら仕事をする、そんな父を見続けていた。
だから自分にも、出来る何かがしたい。
物心がついて間もない頃から、そんな気持ちで、仕事を習った。
死を呪い、死に呪われる魔法。
そんなものでも、無ければ生きていけない様な人々は、大勢居て・・・
必死に毎日、勉強をしていた。

そんな自分の魔法で、生まれて初めて、人を喜ばせる事が出来た。
いくらお隣さんと言っても、彼女は皆の人気者だった。
自分と違って友達の多い彼女であれば、皆と居てもっと楽しい事を、たくさん知っていただろうに。
他でもない自分の魔法で、こんなにも楽し気に笑ってくれた。
それが、嬉しくて仕様が無かった。
何度も立ち上がっては、父に“叩きつけられ続けた”日々に、初めて心の底から、感謝した。

「―――ねえザラキ!ワタシと一緒に、ボーケンシャになってよ!!」
「ぼう・・・けんしゃ?」
「うん!おーきくなったら!」

まだ知識もなく、単語自体、最近周囲の口から聞く様になり始めた、よくわからない言葉の一つでしか無かった。
それでも、あの彼女の口から『一緒に』などという言葉を添えて、発せられたその単語。
鼓動が高鳴り、胸が膨らんだ。

「この里を出て、二人で!あんたがゼンエーで、私がエンゴ。大きな山を登ったり、広い海を渡ったり、空飛ぶイセキ目掛けて、飛んでったり!色んなトコロ行って、困ってる人達を助けて・・・宝物を探すの!」
「・・・っ!」

わくわくと自分の手を握った彼女の瞳は、自分が放っていた魔力光を反射し、輝きながら、まっすぐ見つめて来た。
本当に綺麗な、宝石のような女の子だと、感じた。

「イイでしょ!?」
「・・・うん・・・うん!」

この日、この瞬間を、少年は忘れない。
宝物として胸に刻み、護り続けて、一生を生きると誓った。

「一緒に行こう!僕、頑張るよ!フォルテ!!」


〜・〜・〜・〜・〜・


「オイ!!!!」

ルシフは怒りに身を任せ、自室の扉を蹴り開けた。

「え・・・えっ!?ルッ君、どうしたのその怪我!?」
「・・・っ・・・」

急な怒号に反応して振り返れば、角の根本からの流血に片目を瞑り、身体にも恐らくは負っているであろう打撲を、片手で庇う同居人が現れ、フォルテは顔を青くする。
遠方に現れた魔神の撃破依頼で数日空けていた彼も、今朝には戻るという話だった。
それが、このような夕暮れ時まで、嫌に遅く帰って来たこと自体、不自然ではあったが・・・

「プリーストは!?レンジャーは!?治してくれる人居なかったの今日!?」
「依頼でこうなったんじゃねえよバカ!!!!」
「っ!?」

咄嗟の心配に駆け寄ろうとした身体へと、振り払われる腕。
立ち止まったフォルテは、目を見開く。
やけに目の前で怒れる瞳が、自身へと向いている様に感じる。
ルシフは依頼での苛立ちを、“自身の相手”に当たり散らすような男ではない。
戸惑いを感じた。

「テメェどういうことだ・・・?隠してること吐け!!」
「なっ何・・・っ!?」

ズカズカとフォルテに詰め寄ったルシフ。
机を背にさせ逃げ場を絶ち、彼女の突いた手の裏側へ、拳を叩きつけた。


「・・・最近、ゴーレムに襲われる。」
「え・・・」
「経験の浅いテメェにもわかるよな?“人工の”魔法生物だ・・・ソイツがここ最近、日を置いて何度も仕掛けて来やがる!何度ぶっ壊してもキリがねぇ・・・今日も帰りに出くわして、ブッ飛ばされた!!」

何やら固まっているフォルテを、ルシフは捲し立てる。

「操霊魔法だ!コンジャラーだ!!俺を狙って、付きまとってる奴が居やがる!!」
「・・・あ・・・」

何も言い返さないフォルテは、唖然としている。
数秒、時間が止まった様に、動かなくなった。
開ききった瞳は震え、合わせていた視線をゆっくりと、身体の怪我へと降ろして行く。

「俺も最初は・・・俺の追っ手に見つかったと思った。10割奴らの自業自得だし、他所の国の法に引っかかるでもねえが、それでも、俺だって生まれた土地の奴らに、追われる理由自体はあるからな。・・・けどな・・・」
「っ!?」

机の上に、フレイルよろしく叩きつけられた、袋。
無数の薄い金属同士が、弾け合う様な音。
袋の中身は、大量の金貨だった。

「くたばった俺の情報欲しさに、身包み剝いで行く奴の心当たりなら、いくらでもある。けどな・・・ぶっ壊されたデク人形の中に、わざわざ金袋詰めて置いて行く奴の心当たりなんざ、俺には無ぇんだよ!!」
「っ・・・」
「何の金だコイツは!?報酬のつもりか?一体何のだ!!?!」

フォルテは答えず、声を出せず、その金袋に目を移しながら、震える手で口を押えた。
その目は、何も知らないが故の不安、恐怖など、微塵も感じられない。
例えるならば、そう。
もう既に死に別れた家族の遺言を、忘れかけた頃に初めて、聞かされたような・・・
取り返しのつかない何かを知ってしまっていて、望みの無さに打ちひしがれる、そんな悲しみが、溢れ出していた。

その肩を揺さぶり、追い打ちをかけるルシフ。
既に彼女がシロかクロかは、その態度で一目瞭然だった。

「答えろよ・・・テメェの追っ手なんだろ!?被りたくもねえ水で頭冷やして、俺だって考えたんだよ!!俺が奴に狙われ出したのは・・・テメェと付き合いだしてからだ!!」
「・・・ごめんっ、ルッくn―――
「謝りが聞きてえんじゃねえ!!俺だって、“始めた”時に言ったはずだ!!『俺には追手が居る、それでもいいんだな?』って!!」

小さい肩を揺さぶった手を、そのまま、涙を浮かべた頭の上に、ぐしゃりと乗せた。

「俺だってな・・・今までの人生洗いざらい、全部共有しろとは言わねえ。誰にだって秘密が有るのは、当たり前だ。けど・・・俺も命賭けなきゃいけねえなら、話は別なんだよ!!テメェが言ったんだろうが!『一緒に乗り越えて行こう』って!!」

“付き合う”以上は、お互いの抱えた問題は、分かち合う。
苦しみは、一人で抱え込むことをせず、それに対して出来る事を、一緒になって考えて行く。
結果それが、最善の結果に繋がらないと、自分でわかっていたとしても。
以前、二人で交わした約束だった。

「デク人形にブッ飛ばされる位、命狙われる位、今更迷惑になんか感じねえよ!!けどだったら!・・・テメェなんかの為に俺が命賭けなきゃいけねえ、その理由位・・・もっと早く言えよッ!!自分からァ!!!!」
「っっうぅ・・・!」
「言え・・・誰なんだ?テメェに付きまとってる奴は・・・?」

流れ落ちる涙。
浴びせる罵倒は、理解の愛情。
罰せられたがっている彼女の荷を下ろすため、選び取った言葉。
ある程度の想像はしていたが、かつてない程目の前の少女は、弱りきっていた。

少し、すすり泣く時間の必要を察し、ルシフは一息溜め息を吐くと、至近に居た身体を離し、椅子に腰かける。
フォルテが、自分から語りだすのを、静かに待った。

「・・・・隠してたんじゃ・・・無いの・・・」
「・・・あ?」

口を開いたフォルテ。
静かに、落ち着いた声でルシフは、詳細を問う。

「あいつが・・・私を追ってきてるなんて・・・思って無かった・・・気付いてなかった・・・」
「・・・?」

フォルテは語りだす。
既に取り返しのつかない、“彼の話”を。

「・・・私さえ気にしなければ・・・忘れてしまえば・・・アンタ、一人で歩いて行ける筈なのに・・・何でよ?・・・ザラキ・・・」

失くしてしまった宝物の物語を、フォルテは語った。

〜・〜・〜・〜・〜・

ザラキール・D・レクイエスカス。
ザラキは・・・私の家の、お隣さんだった。
幼馴染み。
・・・?いや、歳の離れたお兄さんとかじゃないよ。
私と・・・同い年。
でも大人しくて、気が弱くて、弟みたいなやつだった。

・・・そんな今でさえ成人もしてない様な奴が、格上のゴーレムを押し付けて来たのかって?
まあ、そうだよね・・・
小さい頃からあいつ、魔法習ってたから。

あいつの家は、葬儀屋兼業の、操霊術師だった。
知ってる?
ちょっと悪いことしたの隠してて、神殿に連れていけない死体の、火葬や埋葬。
それと、その人が亡くなって、生きていけなくなるような家族とかを見つけたら、裏口から蘇生の相談を受けたりする、そんなお仕事。
無縁の死体がアンデッドになって、人を襲うのを防いだり、後追い自殺を止めたり・・・
神様に背くいけないことだけど、それでも、死人が人を死なせるのを防ぐ、大切なお仕事。
勿論、葬儀屋を兼業してるコンジャラーが皆、そんなことしてるかはわからないけど、とにかく・・・
ザラキは、そんな仕事を代々請け負って来た家に生まれた、“ナイトメア”だった。

勿論、里では虐められてたよ?
『神に呪われた家の、呪われた子だー!』って。
お隣で魔法使い同士やってたウチのお父さんお母さんは、そこまでの言い方しなかったけど、他の家の子達は皆、『関わるだけで神様に嫌われる』って、親から教えられてたみたい。
まあ他の家ならともかく、“よりにもよってあの家に”生まれちゃあ・・・って話でさ。
・・・だから、里の友達はみんな、話しかけて来るあいつを遠ざけて、近寄って来るあいつを突き飛ばして、立ち去って行くあいつに、土をぶつけた。
皆、神様に嫌われたくなかったし、何よりお父さんお母さんに、嫌われたくなかったから。
私はずっと、もっと別の事考えてたから、そんなことしなかったけど・・・

聞いてみたことが有るんだ。
どうしてやり返さないのかって。
だってあいつ、本当は虐めて来る子達を自分で懲らしめる事が出来たし、魔法で治してから追い返す事だって、出来た筈なんだよ。
でも、あいつはいつだって叩かれる度に、涙を拭きながら帰って行った。

一度私、あいつの“特訓”を覗いたことがあるんだ。
その時読んでた冒険者の本が、すっごく面白くて、お父さんに『私もなりたい!』って話したら、怒られて・・・
駄々こねてたら、『レクイエスカスさんちのお父さんが昔、冒険者をやっていたから、同じこと言って怒られてきなさい。』って言われてさ。
で、街はずれの方まで子供と出かけて行ったハーディスさん・・・あぁ、ザラキのお父さんね?に、こっそりついて行ったの。

そこで見たのは・・・私の知ってた魔法の練習なんて、優しいものじゃなかった。
まだ5歳か6歳だったザラキは、何度も何度も立ち上がって、お父さんに叩き飛ばされてた。
魔法で強化された棒で殴られて、全身痣だらけの擦り傷だらけ。
お父さん自身が休憩させようとしても、自分の握った棒に魔力を切らさずに、『もう一回。もう一回!』って・・・

それは、自分が将来間違いでアンデッドを生み出してしまっても、一人でそれと戦える“魔法戦士”になる為の、特訓だったんだ。
信じられる?
ナイトメアは確かに、そういうの生まれつき向いてるけどさ・・・
あんなに小さい時に、自分からそうなりたいって、体当たりなんて・・・普通する?
お父さん自身がそれを止めようとしたって、あいつは『そうなる』って、聞かなかった。

あいつは、お父さんが大好きだったんだ。
皆に嫌われても、皆の為にって頑張って仕事を続ける、そんなお父さんが大好きだった。
本当は家の仕事を継がせる気も、ハーディスさんには無かったんだと思う。
ただ・・・操霊魔法は悪い事も出来てしまう、間違えないようにって・・・社会勉強をさせてるつもりだったんじゃないかな?
魔法を教え込む一方で、埋葬仕事の手伝いとか、させてたみたいなんだけど・・・
そんなお父さんの背中に、憧れてたんだろうね。
・・・いやそれよりも、お父さんが心配だったんだ。
本当に大変で、辛い仕事だからさ。
早く手伝えるようになりたくて、必死だった。

全部、後になってわかったことだけどさ。
その必死さは、最初に傷だらけのあいつを見た時から、何となく私も感じてた。
だからこそ不思議・・・ううん、違う。
悔しかったんだ。
毎日、誰も見てない所で頑張ってるあいつが、何も知らない友達に叩かれて、大人からも石を投げられて、それでもあいつ自身、何もしないのが・・・
ちょっと文句を返すくらい、それでもっと叩かれても、叩き返すくらいしたって良いじゃない?出来る筈なんだから。

だから、やらない理由を聞いたらさ。
『皆辛い事がいっぱいで、それを何とか出来るようになる為に、魔法を教わったんだ。自分が辛いくらいで、皆を傷つける為に使うなんて、嫌だ。』だって。
何ソレって、思うでしょ?あんなに小さい時にさ・・・

・・・いろんな人たちのお葬式とか、蘇生とか、生き死ににずっと関わり続けて、もっと辛い思い、辛い顔をしてる人達を、たくさん見てきたんだよ、あいつは。
虐めた子達の中にさえ、お父さんのお葬式に関わった子とかは居てね。
もっと、本当に辛い人たちの事を知ってるから、その当事者にならない為に・・・
間違いで友達を死なせてしまうかもしれない力を、振るう事なんてしない。
寂しそうに泣いてる癖して、そんな事を考えてる奴だった・・・

すごい奴だって、思ったよ。
臆病なくせに、寂しがりなくせに、強くて、優しくて・・・
こんな奴が多分、物語で語り継がれる『英雄』っていうものに、なって行くものなんだって。
色んな場所に行って、色んな人の助けになって・・・

だから・・・伝えちゃったんだ。
『大きくなったら私と一緒に、冒険者になろう。』って。
この世界の冒険に出掛けるなら、こいつとが良い。
きっと、毎日が宝物みたいな思い出になる。
何より・・・こいつを虐め続ける里に、ずっとこいつを縛って居たくない。
ここさえ出てしまえば、こいつを受け入れてくれる場所なんて、きっといくらでもある。
そう、思ったからさ・・・
・・・伝えた時あいつ、らしくもなく目を宝石みたいにして喜んでたの、今でも覚えてるよ。

・・・何の話なんだって?
・・・長い話になる事くらい、ルッ君だってわかってたでしょ?
でも・・・そうだね。
短く纏められなくて、ごめん。
何が言いたいかってそれは・・・知ってて欲しかったから。
ホントのザラキは、アンデッド以外じゃ虫も殺せない、頭でっかちの馬鹿で、良い奴“だった”んだってこと・・・

・・・続きを、話すね。
私たちはそれから、大きくなるずっと前に、冒険に出る事になった。
見ての通り、今でさえ私、成人してないでしょ?

ザラキのお父さんがお仕事で亡くなって、数年。
護ってくれる元冒険者の居なくなった里には、蛮族がなだれ込んだ。
・・・何だろうね。
守りの剣とか、子供たちは聞いたことさえない位だったし、ハーディスさんみたいな人しか護る人居なかったって今考えると、マトモな里じゃあ無かったのかもしれないけど・・・
とにかくね、瞬きする間に火の海になったよ、里は。
大人も子供もみんな殺されて、ただの魔法使いだった私の両親も、突撃してくるいっぱいの蛮族達に、踏み潰された。
私は・・・“小さい蛮族達にめちゃくちゃにされて”、気持ちの病気になった。
声が出せなくなってね・・・表情もロクに、作れなくなったんだ。
・・・そんな眼で見ないで?今はもう・・・大丈夫。
“あいつのおかげで”・・・この通りね。

ザラキはその時、偶々夜遅くまで、街の外で特訓してたの、独りで。
で、帰って来たら・・・あいつのお母さんも殺された後だった。
泣いて・・・叫びたい気持ちを必死に抑えて、歯を喰いしばって・・・たった一人生き残ってた私を、見つけてくれた。
自分にも倒せる蛮族だけ退けて、私を・・・連れ出してくれた。
上着を貸してくれて、鬼たちから隠れて、手を引いてくれた。

自分だって辛い筈なのに・・・何も言ってあげられない私の手を・・・長く触れて居たら震え出しさえする私の手を・・・ずっと・・・

身寄りの無くなった私達・・・私を食べさせて行く為に、ザラキは独りで冒険者になった。
私を慎重に隠しておくために、ギルドから専用の部屋まで借りて。
良い所に住み続けられるように、良い物をいっぱい食べさせられるように、あいつは、お金が貰える無茶な依頼・・・ばっかり受けて来た。
毎日、傷だらけの痣だらけ、ロクに治療も受けないで、包帯巻いて帰って来る。
出来る限り早く帰って来ては、私が大好きだって伝えて来た、冒険の話・・・
・・・見て来た世界の新しいものを、明るく笑って話してくれた。
付きっきりで・・・塞がってない傷もたくさんで、本当は寝ていたい癖に・・・
らしくも無く、ずっと笑いっぱなしで話して・・・私の真似してるつもりだったんだと思うけど・・・
『これだけの笑顔を向けてくれていたんだよ。』って、『だから、今度は僕が。』って・・・言いたそうに。
あの時はもう、その笑顔に、物語に、私が何かを返してあげる事なんて、一生出来ないかもしれなかったのに・・・
私は、『ありがとう』の一言も絞り出せない、私の喉が・・・突き刺したくなる程許せなかった。

だからある日、一度逃げ出した。
私はずっと、あいつから貰い続けて・・・やっと、笑うくらいは出来るようになったのに、あいつは病気みたいにクマを濃くして、酷い顔するようになって行って・・・
私と話してない間は、ずっと物思いにフケるようになって、毎晩眠る度に魘されて、泣いて。
どう考えても、割りに合ってなかった。
本当に壊れちゃう前に、こんな私が居なくなればって、思ってさ。
夜の間に荷物纏めて、置手紙一枚残して、部屋を出て行った。

・・・でも、流石に私も引きこもりで、世間知らずだったからさ。
街を出てすぐ、蛮族に捕まった。
頭が良くて、蛮族にしては分別がある方で、集まりの食料を最低限、確保している様な奴らだった。
そんな奴らが真っ先に狙うくらいだから、よっぽど格好のカモだったんだろうね、私。
死ぬのは本当に怖かったけど、まあでも・・・
これで私はもう、あいつを苦しめ続ける事は、無くなるんだろうなって考えたら、少し、ホッとしちゃってた。
このまま見つかる事無く、あいつの知らないどこか遠くで、勝手に居なくなったことに出来るなら・・・てさ。

・・・けど、ザラキは来た。
起きてからの短い時間で、人まで集めながら、私の足取りを追って、蛮族の隠れ家を突き止めてしまった。
私を捕まえてたオーガ達が、子供のザラキに心の底から怯えてたの、今でも覚えてる。
自分たちの痕跡を隠すくらい、手慣れてた筈の奴らの隠れ家を・・・あんなにあっさりとさぁ・・・
ほんの1年ちょっとで、どんな場数を踏み続けたら、ああなれたんだろうって・・・苦しくなった。

けど、そんな考えは甘かった。
私の想像力なんて、所詮は子供の玩具でしか無かった。
お金を多く稼ぐのには、危険な依頼とか、いっぱいの依頼を受け続ければ良いとか・・・
ホント、何を目指してたつもりだったんだろうね?私・・・

私は見た。
大きな蛮族達を皆殺しにした後、あいつが・・・顔色一つ変えずに、子供達の首を薙ぎ払うのを。
蛮族の集まりが育ててた、ウィークリング達。
いくら蛮族でも、人の顔をしていたし、私達より小さな子供達だった。
『親殺しの自分達を彼らが許すわけ無いし、そんな彼らの復讐に付き合う余裕も、そうならないかを見張る時間も無い。生かしておいても、その責任が僕には取れない。』って・・・

・・・危険な仕事だけじゃ無くて、あいつは、誰もやりたがらない汚れ仕事も、沢山引き受けてたんだって、その時わかった。
勿論、自分から進んでそんな依頼ばかり受けてたんじゃ無いって言うのは、わかってる。
多分、冒険者に受けさせるために肝心な所を省いて依頼書を出して、蓋を開けてみたら人殺しの依頼だったって、どうにもならないタイミングでわかるみたいな・・・そんなの。
いっぱいお金を稼いで、私を食べさせて行く為に、片端からお金の出る依頼を受けて、そんなものに騙され続けて・・・
・・・でも、どれだけ自分が嫌だと思っても、皆に必要な事なら、進んで引き受けるような奴・・・だったからさ。

・・・・

子供を殺した時のあいつ、泣くどころか、笑いさえしなかった。
何も感じなくなるくらい・・・いや、それは無いね。
何も感じてないって、機械みたいに“振舞える”位には、沢山の人を殺してきたんだって・・・わかっちゃった。
プレゼントを買って帰って来て、私に冒険の話を笑って聞かせてた、その裏で。

生きる人の為に死人と戦う、お父さん大好きだった。
友達と仲良くなりたかったし、傷つけるのも嫌だった。
かわいそうで、虫も殺すことが出来なかった。
そんなザラキを私が、死神にしてしまった。

その後あいつは、嬉しそうに泣きながら、私を抱きしめた。
『一緒に居てほしい、好きなんだ!』『君が生きててくれて、本当に良かった・・・』って。
あんな酷い時でも、あいつが真っ直ぐ好きだって伝えてくれたのは、嬉しかったよ・・・
・・・でも。
一緒になんて・・・居られないでしょ?

〜・〜・〜・〜・〜・

「・・・あいつは私さえ居なければ、皆の英雄になれたんだ。私なんかが冒険に誘ったりしたから・・・あいつは、私以外を選べなくなった。本当は助けたいって思った筈の沢山の人たちを、見殺しにし続けた。」
「・・・・」

長い話をルシフは、椅子から立つこともせず、片手で自身の頭をぐしゃりと抑え、聞き続けた。
かつて見たことも無い程、自虐的になった彼女の表情に、目を合わせられなかった。
彼女に一番似合わない、して欲しくない表情だった。

「あいつを人殺しにしたのは私。私は・・・あいつの傍に居ちゃいけないの。」
「・・・それで?」

溜め息を大きく吐いてから、口を開いたルシフ。
知らない世界の物語だった。
両親にさえ愛された覚えも無く、対価や駆け引き無しのやり取りなど、彼女と出会うまで触れた事すら無かった。
暇を持て余した者達が、噴飯しながら呟いた冗談としか、思っていなかった、それ。
『無償の愛』とは、斯くも悍ましいものだったのか・・・
そんなものに自分は、今狙われている。

「凝りもせずまた出て来たのか?そりゃ、追いかけて来るだろうよ・・・」
「・・・・」
「・・・?何だ違ぇのかよ?」

呆れ果てた声でのルシフからの問いに、フォルテは首を横に振った。

「そんなのは、あの時の私もわかってたよ。せめて、“声が出るようにならなきゃ”ってね。」
「・・・?」
「結局病気が治らなきゃ、あいつは少なくとも私を、“助け続けなきゃ”いけない。そんなあいつから離れようとしたって、きっとどこまでもついて来る。」

救いたかった人々を見捨て続けて、選んだものだからこそ。
まだ助けが必要な状態で、放っておくなどあり得ない。

「だから、少なくとも治るまで・・・一緒には、居たよ。“絶対に治す”って、心に決めてさ。・・・本当に治ったのを考えると、やっぱり気持ちの病気っていうのは、自分で治したいと思わなきゃ、ダメなんだろうね。・・・お陰でこうして声も出て、今は魔法でお仕事が出来てる。」

フォルテも、元より魔法使いの家系の出であり、故に、詠唱の一つも出来なくしていたその病は、彼女を魔法使いとして殺していた。
その病さえ治ってしまえば、フォルテは駆け出しの魔法使いとして、すぐにでも身を立てることが出来た。
決して、容易い療養では無かったが、それでも、やりきったからこその今がある。
そうして、『一人で生きていける証』を掴み、少女は、『救う為に選ばなければいけない存在』からの、脱却を果たした。
少年を、自身の束縛から解き放つために。

「・・・11歳で旅に出て、二年間、本当に大変な事ばかりで、ザラキが居なきゃ私、勿論生きていけなかったし、増して声なんてきっと、一生戻らなかったと思う。・・・だから、私の口から直接伝えたの。『もう大丈夫』って。『あんたはこの先、自分の為に笑って良いんだし、泣いて良い。行く先で助けたくなった人を、みんな助けてあげればいい。私なんかの為にこれ以上・・・誰も殺さなくて良い。』って・・・」
「・・・・」
「『ザラキ自身の行きたいところに行って、やりたいことをやって欲しい。私は、もう充分助けてもらったから。』『今まで、本当にありがとう。』って・・・伝えた。」

勿論、それが全ての感情では、無かっただろう。
外道に堕ちた事への怒り、殺人鬼に変わり果てた恐怖、それら全ての苦難を、“分かち合うことが出来なかった”、悲しみ。
どれか一つでも解き放てば、少年を奈落に突き落とす黒い感情は、いくらでもあった。
しかし、フォルテはそんな言葉を、別れ際に選ぶことはしなかった。
ただ、感謝だけを、憶えていて欲しかった。

「・・・成る程な。つまり、一度は円満に分かれたって訳か、一応?」
「・・・うん。」

そこから先は、恐らく感知して居なかっただろうと目星をつけたルシフは、結論を先読みした。
頷いたフォルテは、喪失の切なさと、憧憬への慈しみを表情に浮かべている。。
もしこの話をそのまま伝えて、それでも食い下がる様な相手だったのなら、今日まで追われていた自覚を、このフォルテが持てなかった説明がつかない。
無理矢理突き放した相手から、追われる身に覚えを全く持てない程、彼女は無神経ではない。
きっと血反吐を吐く程行いを悔い、血涙を流す程別れを悲しんだに違いなかったが、それでも、件のザラキという少年は、前を向いて立ち去る彼女を、見送ったのだろうと想像できた。

「・・・チッ。」
「っ!?ルッ君!?」

舌打ちをし、苛立った様子で席を立つルシフ。
そのまま立ち去りかけたのを目の当たりにし、フォルテも立ち上がる。

「ったく・・・ざけんなよ。俺は“奴の代わり”ってワケか?あぁ??」
「・・・!!」

ルシフは、“今自分が置かれた状況に、ある程度の推察がいった”。
その、一番不本意であり、しかし、全く図星ではないとも言い切れない片鱗に、察しのついたフォルテは、目を見開いた。

「ち・・・ちが―――
「どう違えんだよ!?テメェと奴は、一緒に冒険に出られなかった!!だから、俺を奴の代役に立ててんだろ!?違えのかよ!!」

先ほどまで温厚に話を聞いていたルシフも、剣幕を荒げた。
ルシフの怒りは、つまりこうだ。
自分はフォルテに、曲がりなりにも確かな好意を持ち、フォルテもそうであると信じて、“現在の関係”に至っていた筈だった。
故にその“想い合っている関係”を前提として、“自身の相手の事情”であれば、余程の事でない限り、許容する思いやりを持っていた。
・・・しかし、相手の心が自分に無く、それをあたかも自分にあるかの様に振舞っていたものとなれば、話は別だった。
彼女は端から自分に好意を向けていた訳ではなく、その面影の向こう側に見立てたザラキとかいう知らないガキにこそ、好意を向け続けて居たのだとしたら・・・
随分と出来の悪い、道化人形にされた気分だった。

「・・・奴と行きたいってんなら、今からでも戻っちまえよ・・・俺はこんな所さっさt―――
「ッッ待って!!」

既に扉へ向いていたルシフの背中に、フォルテはしがみ付いた。
言葉より先に、行動で想いを伝える様に、強く、高い背中を抱きしめる。

「ちょっと・・・待ってよ・・・お願いだからっ・・・」
「・・・」

強引に振りほどくことはせず、ため息をついて止まるルシフ。

「確かに・・・今までルッ君として来たこと・・・ザラキとしてみたかったとか、全然思ったこと無かったなんて言ったら・・・嘘だよ?でも・・・でも!!」
「・・・なんだよ?」

怒りを腹の底に沈めながらも、静かに続きを聞くルシフに、フォルテは告げた。

「・・・ルッ君はこうやって、“待っててくれる”。ザラキは・・・“この背中を掴ませてさえくれない”。」
「・・・・」
「“一緒に居たい”って言う癖に!あいつは・・・私が困りそうな事を見つけたら、私が気付く前に何とかしに行って、傷ついて・・・“そのまま戻って来ない”!!ずっと・・・ずっとそうだった!!・・・ルッ君は違う!!」

自身が直面する筈だった問題、進むはずだった道の、数百歩先を直進し続け、血を流しながら道を開ける。
日頃戻る笑顔も全ては仮面、傷だらけの魂は持ち帰られる事無く、次に通る筈の戦場へと向かい続ける。
愛する者の流した血がこびり付き、先に居た悪鬼たちの死体が転がる、悍ましい平和な楽園を、孤独に一人、歩かされ続ける。
フォルテにとって、ザラキと生きた2年間とは、そのようなものだった。

「ルッ君は私が困ったら・・・“何があっても”ちゃんと、こうやって待っててくれるし、何だかんだ一緒に考えてくれる!!ルッ君自身が困ってることがあったら、“私に都合が悪いかもしれないやつ”でも、ちゃんと持って帰って来てくれる!!私と・・・一緒に歩こうとしてくれる!!」
「・・・!」
「あいつの代わりになれるなら、誰でも良いとかじゃない!!私がルッ君と居たいって思うのは、ルッ君だからだよ!!」

死体の並んだ楽園を一人で歩く位なら、例え魑魅魍魎と戦い続けなければ通れない地獄でも、愛する人と共に歩きたい。
冒険とは本来そういうもので、より短い時間ではあるが、ルシフは着実に、誠実にフォルテのその願望を、叶え続けて来た。
“始めにした約束”が持っていた本来の意味が、ルシフの中で腹落ちした。

「だからお願い・・・一人にしないでっ・・・」


「・・・見ろ。テメェが一人になりたくねぇだけだろうが・・・」
「!」

憎まれ口を呟きながら振り返ったルシフは、縋りついていた頭を片手で抱き寄せる。
フォルテは、何とか引き止められたことを安心し、身を任せてしがみ付いた。

「・・・“あの野郎はそう思ってねぇ”みたいだがな。」
「え・・・?」

そのまま静かに、話題を戻すルシフ。
“何故、今自分が狙われているのか”。
フォルテは、話題がそこに切り替わった認識が、一瞬遅れた。

「奴は俺を、選ばれなかった自分の代わりにでもするつもりで居やがる。・・・わざわざ報酬積んでまでゴーレムぶつけて来んのは、つまり“そういうこと”だろ?」
「・・・・」

既に自分も薄々目星がついていた事を当てられ、沈黙するフォルテ。
そういうこと、とは・・・
フォルテが冒険稼業に身を置く以上、危険にさらされ続ける。
大半は嫉妬からくるものであろうが、こうして“自身”が分かれてすぐ近づいたルシフの事に関しても、危険の一つとして捉えているかもしれない。
そこで、戦力として弱ければ叩き潰し、意志が弱ければ付き合いきれないと、放り出すような強さのゴーレムを宛がう。
逆に耐えうるようであれば、かつて愛した彼女を手放さない者を、順当に鍛えて行く事にもなる。
自身が選ばれなかったのであれば、せめて・・・
“下らない、未練がましい男の意地”というものを想定した時、ルシフにとってこの思考は、決して行きつけない様なものでは無かった。

「・・・千歩譲って、テメェに代わりに思われる位は許容するにしてもだ・・・どこぞの知らねえクソガキの嫉妬だか、意地だかに付き合ってやるつもりはねぇ。」
「ルッ君・・・」

静かに、しかし確実に険悪な反応をしているルシフに、フォルテは心配気に顔を上げる。

「ザラキ・レクイエスカスっつったか、ソイツ?・・・生で見かけたらブチのめす。文句言うなよ・・・?」
「・・・・」

殺意を向けていない辺り、ルシフにも彼、ザラキの行いにも一部、認めているものは確かにある様だった。
が、それはそれ。
正当な憤りを感じているルシフに、フォルテからは何も言えなかった。


「・・・一旦離せ。汗と血ィ流して来る。」
「・・・傷、開き過ぎない様にね・・・」
「あぁ・・・」

赤黒い大槍が立て掛けられた隣で、閉まる扉。
二人の夜は更けて行く。

〜・〜・〜・〜・〜・


“その宿舎”を見下ろすことが出来る、暗闇の降りた高台。
黒銀の大鎌が、何処からか刺した光を、反射している。
それを肩に掛け座り込んでいる、二本角の生えた少年。

―――え、何コレ!?ツノ生えてんの!?かっこいいじゃん!!―――
―――ザラキの魔法はね・・・銀色に光って綺麗なんだよ!!―――

「・・・貴方が・・・くれた証明・・・胸の内側に・・・ある・・・」

クマを溜めた目を薄く開き、“そこ”を見下ろし、小さな歌を口ずさむ。

―――生きる人の為に魔法を唱え、弔い続けるんだ。ザラキ・・・―――
―――それが出来ない操霊術師に残るのは、死神の汚名だけだからね。―――

「・・・世界と・・・別れるまで・・・ずっと・・・」

―――お前は“そんなこと”の為に、“正しく罪を犯し続ける道を選んだ”!!そのせいで多くの人を殺した!!これからもそうだ!!―――
―――なのにっ・・・私なんかの為に全部諦めて、いっぱい・・・いっぱい・・・―――

「・・・はぁ・・・」

歌を途切れさせ、ため息が出る。
只一人でこうしてじっとしていると、無尽蔵に記憶が溢れ出す。
父を裏切り、あの娘を悲しませ、全てを失い続けた記憶。
ただ、里で笑って居たあの頃の、憧憬だけが生きる希望で・・・

「・・・何やってんだろ、俺・・・」

錆びつきだらけの、それでも鈍く輝き続ける宝を抱いて・・・
“既に失くした夢の跡”を、亡者の様にただ、見続けて居る。

通知音。
最近所属した傭兵団から、支給された連絡魔動機。
おもむろに懐からそれを取り出し、耳に当てる。

「・・・こちらイレブン傭兵団、第4期研修兵、レクイエスカス。・・・

・・・了解、急行する。」

変声期も只中の音程で、無機質な返事を魔動機へ返し、立ち上がる、150cm前後の身体。
簡単な野営跡を手早く片付け、立ち去り際振り向き、呟く。


「じゃあ、行って来るよ。おやすみ、フォルテ・・・」

君が望んでくれた通り、助けたい人をこれから、助けに。
その灯にやつれた笑みを送り、ザラキはその場を飛び去った。


〜〜将来亭第6期CPへ続く〜〜

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